当然のことながら、結末が大事な漫画だけどネタバレを含むので注意。
インパクトある表紙に釣られて読んでみた。
なんとなくタイトルから察する人もいるだろうが、全体的なストーリーとしては、「何らかの悩み・欲求不満・コンプレックスを抱える人」に対して、それを一時的に解決する商品を提供し、その後その人がどのように行動をするのかということがオムニバス的に描かれる漫画。いわゆる「笑ゥせぇるすまん」な要素のある漫画だ。
第一巻では3人の人物が登場する。
それぞれ、「顔がブサイクでモテないことにコンプレックスがある男性:実」「太めの体型にコンプレックスのある女性:横田」「同じサークルの女性に片思いするが恋愛経験がなく行動を起こせない男性:イッセイ」の3人だ。
そして、それらのコンプレックスや悩みに対して、「楽園市場」の商品がそれぞれ提示される。
実には、「夢の中でなら理想の自分の容姿になれてすべてが上手くいく」という機能を持つ「夢枕」。
横田には、「体型・顔を理想の状態に変えてくれる」という機能を持つ「夢マスク・夢ボディ」。
イッセイには、「意中の異性を自在にゲットできる」という機能を持つ「夢和傘」が提示される。
ヒトの悩みに寄り添う商品…と言えば聞こえはいいが
この漫画を一度読んで、もう一度トップに戻ったときに関心したのは、「楽園市場」の商品紹介のWebサイトが描かれたページだ。ネット広告でこんなんよく見るよなと。
実際のところ、商品広告はある程度過剰なものでなければ売れないだろうし、「自由自在」「モデル旧美女」「モテモテ」なんて、いかにも広告で使われそうな文言。
そして、いわゆる消費者の「劣等感」「コンプレックス」にアプローチして商品を買わせようとする広告は、「コンプレックス広告」とか「コンプレックス商材」とか言われる。ダイエットとか薄毛治療とかホワイトニングとかがそうかな。
コンプレックス商材そのものが悪いとは思わないし、そこにお金を使う消費者が悪いとも思わないけど、まぁ実際コンプレックス商材が売れ続けているということを考えると、つまるところそれらの商材ではコンプレックスの解消には至っていないんだろうなと。
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「楽園市場」の商品で一発逆転なるか
さて、そんな人々のコンプレックスとか悩みにアプローチする楽園市場の商品、もちろんただで問題が解決するわけじゃない。まず商品の価格はとんでもなく高額であったり、使用時間の制限があったり、使用方法に制限があったりする。
けれど、このあたりの制限は使用者にとってもどかしいもので、最初はこわごわ使っていた使用者も、だんだんと「少しぐらいならいいだろう」という慢心から、用法や用途を守らず使用するようになる。
結果、使用者には手痛いしっぺ返しが…という展開は、「ドーン!約束を破りましたねぇ!」という感じそのもの。
長年のコンプレックスとか、ずっと思い悩んでいたものに対して、「それひとつで」解決できる商品があるのだとしたら、誰でもそれを欲しいと思うのは仕方がないのだろうなという感覚はある。
だけど、コンプレックスは必ずしも解消しなければならないものではないし、場合によっては別の解決方法があるケースも多い。治療とか習慣、関わる人や環境を変えるだけで境遇が思いっきり変わることもある。
実際、夢枕を買った「実」は、最後の最後に良い出会いを果たすわけだけど、実はこれ夢枕がなくても出会うチャンスはあったのだし、出会うきっかけとなったのは実の本来の人柄のおかげともいえる。つまり、最初から一発逆転なんていらなかったわけだ。結果論だけど。
ただ、この一発逆転という魅力はいつの時代も人を惹きつけてやまないんだろう。古く遡れは神頼みとか贖宥状、ゴールドラッシュなんかもそういう人間の性かもしれない。
個々人の理想の実現には、努力とか才能以上に運の要素は確かにあるし、本来の意味での「他力本願」(自らの力での修行と、他力 ※阿彌陀佛の本願※ とをあわせて信心するということ)はある種やむを得んのだろうなとは思う。
もちろん人間が、自分の人生でのよい体験や成功を望まなくなれば一発逆転なんて考え方もなくなるのだろうが、それはそれで人の生き方として健全か?という疑問も浮かぶ。
「楽園市場」とどう向き合うべきなのか
楽園市場の商品は「欲望との正しい付き合い方」に着目することもできるし、「願いを叶えてくれるモノの適正な利用」という教訓に着目することもできる。もちろん、「こんな商品にハマって、バカだなー」と気軽に読むのもいい。
オムニバス形式なので読みやすく、サクサク内容が入ってくる良い漫画だった。